研究紹介(後藤和子氏)

「工芸産業への知的財産権の適用は工芸産業の振興に有効か」文化経済学19巻(2022)1号

 伝統工芸は、有形無形の文化遺産でありクリエイティブ産業でもある。日本では、伝統工芸の振興は、文化庁の無形文化遺産の保護と経済産業省の伝統的工芸品の振興の両面で行われてきた。本稿では、伝統工芸が内包する技や文化的コンテンツに着目し、その振興策の1つである知的財産権の適用について検討する。

 文化経済学では、著作権の経済分析は行われてきたが、著作権以外の知的財産権やその適用に関する研究はほとんど行われてこなかった。そのため、本稿では、まず、知的財産権の経済学的根拠を、「法と経済学」の先行研究から明らかにする。そして、知的財産権がどのように伝統的工芸品に適用されているのか確認するために、実際の裁判事例を検討する。更に、知的財産権の中でも伝統工芸に適用される頻度の高い商標や地域団体商標に的を絞り、工芸産業への知的財産権の適用が工芸産業の振興にとって有効かどうか検討する。